医薬品マーケティング
インターナルマーケティングが必要なとき
ブランドマネージャーが苦労して作った施策が、現場(営業)にうまく理解され・実行されないのは、残念ながら日常茶飯事で、多くが抱える共通の悩みでもあります。
この課題を解決するアプローチとして有効なのが「インターナルマーケティング」の考え方です。これは顧客の概念を外部顧客だけでなく社内(内部)へと広げる手法です。社内関係者が施策の意味を深く理解した上で取り組むことで、外部顧客へもメッセージや施策を適切に届けられるようになります。
ただ、ここで陥りがちなよくある誤解は、社内を「説得」や「刺激(インセンティブなど)」によって動かそうとすることです。時にはペナルティーまで登場することもあるかもしれません。これは「最適な刺激を与えれば購買行動が起きる」という、従来の「刺激反応モデル」の延長に過ぎません。例えばMR(医薬情報担当者)に対すす各種インセンティブの提供などは、いまでは常態化・インフレ化しており、「もらって当たり前」的になり、もはやモチベーション向上策としての効果は限定的になっています。
こんなときに示唆となるのが、経営学の代表的な知見である「ホーソン実験」(メイヨーやレスリスバーガーらによる研究)です。1930年前後に行われたこの実験は、ウエスタンエレクトリック社のホーソン工場で、女子行員が選ばれ隔離された実験室において、疲労や単調感などと作業効率の関係についての仮説検証のためのものでした。
作業環境(照明や休憩時間、賃金条件など)と作業効率の関係を調査した結果、事前の仮設(予想)に反して物理的・経済的条件を悪化させても作業効率は上昇し続けました。 実験を通じて明らかになったのは、効率を高めたのは作業環境の良さではなく、「自分たちが注目され、期待されている」という心理的・感情的な要因や職場内の人間関係・モラルだったという点です。
どうでしょうか。社内(営業現場)を動かす際も同じことが考えられますね。単に報酬的なインセンティブなどの「条件」を提示するだけでは、なかなか人は動きません。「あなた方の働きを大切に思い、期待して見守っているよ」というメッセージを伝え、貢献意欲や有能感、チームワークを引き出す姿勢こそが、インターナルマーケティングの本質であり成功の鍵となります。
MR出身のブランドマネージャーが多いこの製薬業界だからこそ、「現場の気持ち」と「理論」を結びつける視点が最大の強みになります。
日々の業務でぜひ意識していただきたいのは、「営業現場を動かすストーリーが提示できないか」、「現場の主体性を活かした、本社としての伴走方法」です。単に施策を「現場に降ろす」のではなく、どうしてこの施策が大事で、それは特にどんな医師や患者さんに最もフィットするのかをきちんと添えること。それがMRとしての情報提供価値をどう高めるのかを丁寧につたえましょう。そして「成果を一緒に追いかける仲間」として現場を承認し、その声に耳を傾ける姿勢と仕組みを持たせることが大事です。
あなたの熱意とロジックは、ちゃんと伝われば必ず現場を巻き込む原動力になるはず。多少の試行錯誤はありと思って、それを重ねながら、患者さんに価値を届けられるブランドとしてのチームを創り上げていきましょう!
医薬品マーケティングのKPIを評価に使わない
こんにちは。医療用医薬品マーケティングのトレーナー尾上昌毅です。
今日は、KPI、なかでも営業活動をモニターするコントロール指標のKPIについて考えてみます。
先日実施した製薬企業向けWebセミナーで参加者から出た質問にこんなものがありました。
「現場からMRに報告してもらう今のKPIのやりかたでは、報告に手間がかかるうえに、個々のMRが主観で入力するので不正確であり、なかなか役に立たないが何か良い解決法はないか」というものでした。
これは、どこの会社も頭を悩ませる高頻度の「あるある」問題です。
さて、今おきているこの事象の不具合を(力ずくで、あるいは小さな工夫によって)解決するというやりかたも多分あるでしょうが、そもそも我々は何のためにそのKPIを測定しているのかというところから考えてみましょう。
「営業に報告を依頼するKPI」というのは、本社がブランドプランで提示した施策を
1. 現場がどの程度理解し、
2. それを実行して、
3. 実行したことが効果(成果)につながっているのか
を知るための 一連の流れを追いかけるための指標です。
つまり本社が、
「この1ヶ月で〇〇をやりきりましょう」とか、
「今回はこういう医師と重点的に〇〇のデータのことを話し込みましょう」とか、
「薬剤投与について、医師には、まずこんな点をヒアリングしてみましょう」
などの基本的な活動を、現場が実際におこなえているかどうかをモニターしたいわけですね。
その際に、望ましいのは、全MRが(実際にやれたかどうかという)正しい実態の報告をタイムリーに挙げてきて、その結果に基づいて、本社側の考えたメッセージが本当にうまく伝わっているのか、趣旨まで現場に理解されているのか、そしてそれが(社外向けに)実行に移されているのか、さらには顧客の何らかの変化(認知や行動の変化)につながっているのか、までをKPIで見れることです。
しかし残念ながらそういう理想的な姿は 一般的ではありません。
原因は多数ありますが、そこの詳細は置いて、私が提案するのは以下のことです。
まず全員、つまり全MRからデータを取ろうという発想を本社は一旦諦めてはどうか、です。ここは全数でなくサンプリング調査をして、その数字から全体を判断することとし、報告は全員でなくても良い というやりかたです。言うまでもなく市場調査のサンプリングの考え方です。
それでは「なぜ、今現在はサンプリングをしないで全員(全MR)から回収するのでしょうか?」
どうでしょう、あなたは考えてみたことがありますか?
1つの理由は、そこに評価を絡めてしまっている(ことが多い)ためでしょう。
一部の人(MR)しか評価できないのでは困りますよね。
しかし、もしKPIとして報告をもらうことの真の目的が、「こちらの言っている事が正しく伝わって実行されているのか を見たい」ということであるならば、 その報告をMRの評価に使わない方がむしろいい、というのは自明のことでしょう。なぜなら、その報告結果それ自体を評価対象にするとなれば、いろいろな思惑が入ってノイズだらけの入力データになってしまいます。
人間誰しも、「悪く思われたい」と思う人は少ないので、できるだけ本社が望むような回答数値をそこに入れて返す傾向は否めないでしょう。多くの人がそうやって忖度しつつ、上積みされた数字を入力することが結局は、実態(真実の姿)を分からないものにしているわけです。これは冗談でなく本当に残念なことです。
そういうKPIは「評価」としても機能しないばかりか「モニター」としても 全く意味がないことになります。評価機能を混在させたために、評価もモニターにも使えないGarbageデータになってしまったと言えるでしょう。
したがって提案としては、まずKPIで評価をするのを止める。
すると全員から取る必要は必ずしもない。
そうするとサンプリングで良い。
サンプル抽出された人は評価されるわけではないし、無理に上積みされた(本社が望むような)数字を入れて報告する必要はない、ということになります。
もちろん、何もしないで簡単にそうはならないでしょうから、ここは 営業マネージャー達としっかり話し込んで、なぜ無作為にランダムサンプリングした人から回収するのか、を理解してもらう必要があります。
繰り返しになりますが(お金も手間もかけた)本社のメッセージが現場にちゃんと伝わっているかという分析に役立たないKPIは要らないのだということを、現場のファーストラインマネージャーによくよく理解してもらうことが重要です。
もっとはっきり言えば、嘘を入れるくらいだったら、モニターを辞退して欲しい、と言うことですね。
嘘を入れてもらってデータを濁らせることのないような仕掛け、あるいは嘘を入れることに何のメリットもない、 それどころか嘘を入れると全体に多大な迷惑をかけるのだ、という本質的な理解を本社と営業に持ってもらう。そこからスタートすれば、現状の主観による水増し数字というのはかなり避けられるでしょう。
また もし「毎月の報告が大変」という状態があるのでしたら、これもサンプリングによって分散して当たるようにすればある程度解消はできるはずです。
また当然MRが自己申告で入れなくても済むような 何らかの形でログを取って自動的に報告されるような仕組み の導入はさらに進んでいくでしょう。
ただ繰り返しますが大事な事はログさえ取れればいいのではなくて、何のために、こうしたモニターをしているのかということをしっかり理解してもらうことです。そしてそこに本社も本気になることです。
それなしにはKPIというのは、残念ながらお金と手間をかけて壮大なフェイクデータをいじくっているという、見せたくない、見たくない現実になってしまうのではないでしょう
製薬企業は 国民健康保険制度の元に成り立っているビジネスである以上、こういったあまりにも不合理なことを延々と続けていくことに対しては、もっと倫理的なブレーキをかけるべきだろうと思っています。
まずは、自社のKPIの実態を見て、評価がはいっているかどうか?
評価がもし入っているなら、それによりどんな事態がこれまで起きていたのかを振り返るところからスタートしてはどうでしょう。
