新任ブランドマネージャーを劇的に伸ばす「着任前3日間研修」の勧め
こんにちは。製薬企業ブランドマネージャーの育成をミッションとして活動している、株式会社マーケティングインサイツの尾上昌毅です。
今回は、製薬会社における新任ブランドマネージャー(以下、PM)の育成機会について考えてみたいと思います。
未整備なPM教育と「業務の嵐」
先日実施した公開セミナーで、ある受講者の方から「営業現場からPMに異動して、まだ3ヶ月なんです」というお話を伺いました。
MR(医薬情報担当者)として現場で活躍してきた社員が本社に異動してPMに着任する際、どのような研修が用意されているでしょうか。企業によって多少の差はあるものの、残念ながら、一貫したプログラムがなかったり、教育体制が非常に未整備なままであったりするケースが少なくありません。そしてこの状況は、何年も前から変わっていません。
なぜPMの育成体制は整備されにくいのでしょうか。
例えば、MRや営業課長、支店長といった職種であれば、対象となる人数が多く、定期的(毎年など)に研修が発生します。そのためノウハウや知見が蓄積されやすく、専任の研修担当者や標準プログラムも準備しやすいと言えます。
一方で、ブランドマネージャーは一度に誕生する人数が圧倒的に少なく、異動のタイミングも不定期です。さらに、担当する製品によって置かれている市場環境や課題も異なるため、一貫した教育プログラムを構築しにくいという背景があります。
その結果として、多くの製薬企業で教育の未整備状態が続いてしまっているのです。
本社に着任してからでは「遅すぎる」理由
ここで、数年前にお会いしたある外資系製薬企業の営業部長(仮にAさんとします)とのエピソードをご紹介します。Aさんは営業トップでありながらマーケティングにも非常に造詣が深い方でした。
一般的に、MRがマーケティング部に異動する際は、本社に着任する前の2〜4週間ほどを使い、営業現場(テリトリー内)で後任者への担当施設や業務の引き継ぎを行います。主な担当施設にあいさつ回りをし、一通り引き継ぎを終えてから本社へ着任するのが標準的なスケジュールです。
しかし、Aさんはこの引き継ぎ期間を「3日間だけ短縮」させ、その3日間で本社に来てもらい、事前にマーケティング研修(2〜3日間)を受けてもらうという仕組みを取り入れていました。
なぜ、Aさんはこのような工夫を行っていたのでしょうか。
それは、PMという職種の実態を深く理解していたからです。新任PMが本社に着任し、前任者から業務を引き継いだ瞬間から、山のような仕事が降りかかってきます。それらの多くは、企画や戦略作成といったクリエイティブな作業ばかりではなく、日々のタスク処理や手配業務も含まれます。
一度この「業務の嵐」に飲み込まれてしまうと、渦中でじっくりとマーケティング理論や思考法について学ぶ時間を確保することは、極めて困難になります。
つまり、「現場での引き継ぎを終えて本社に着任してから学ぶ」のでは遅すぎるのです。まったく新しい職種に挑戦するための準備期間がないまま現場(本社業務)に放り込まれるという、他の職種や業界ではあまり見られないような状況が、医薬品マーケティングの世界では常態化していました。
「先輩の背中を見ながら学ぶ」「同僚との雑談から徐々に身につける」という OJT 的な解決策もあったかもしれません。しかし、現在のマーケティング環境はデジタル化が急速に進み、専門化・サイロ化が進んでいます。製品ごとにチームが分断され、横のコミュニケーションや知見の共有が難しくなっている現代において、「現場で自然に身につくこと」を期待するのは非常にリスクが高いと言わざるを得ません。
「着任前3日間研修」がもたらす絶大な効果
引き継ぎ作業の期間は確かに忙しいものですが、タスクの範囲はある程度見えています。その期間中の3日間を使い、数週間後に必要となる「医薬品マーケティングの基礎理論」を先行して学ぶ。このアプローチは非常に合理的であり、多くの製薬企業が取り入れてもいい優れた工夫だと感じます。
例えば、新年度の4月に3〜4名の新任PMが誕生する場合、3月に行われる引き継ぎのスタートを「3日だけ早く」設定します。全体の日数を減らすのではなく、開始をわずかに前倒しすることで、業務に支障を出さずに研修用の「3日間」を生み出すことができるのです。
この着任前の準備期間に集中研修を行い、あわせて読むべき必須書籍などを提示しておきます。そうすることで、新任PMは基礎知識を持った状態で本社に着任できます。いまであれば、もし業務でAIが必須なのでしたら、必要な範囲のAI研修も加えることができそうです。
日々の実務に追われ始めても、「研修で学んだあの理論は、いまやっているこの実務とこう結びつくのか」「あの分析はこの施策のためだったのか」と、頭の中でマーケティングの理論と実践が噛み合い、腹落ちするスピードが格段に早くなります。
新任ブランドマネージャーが自信を持ってスタートを切り、早期に立ち上がるためにも、この「着任前3日間の研修準備」を検討してみてはいかがでしょうか。
