医薬品マーケティングのKPIを評価に使わない

こんにちは。医療用医薬品マーケティングのトレーナー尾上昌毅です。

 

今日は、KPI、なかでも営業活動をモニターするコントロール指標のKPIについて考えてみます。

先日実施した製薬企業向けWebセミナーで参加者から出た質問にこんなものがありました。

 

「現場からMRに報告してもらう今のKPIのやりかたでは、報告に手間がかかるうえに、個々のMRが主観で入力するので不正確であり、なかなか役に立たないが何か良い解決法はないか」というものでした。

これは、どこの会社も頭を悩ませる高頻度の「あるある」問題です。

 

さて、今おきているこの事象の不具合を(力ずくで、あるいは小さな工夫によって)解決するというやりかたも多分あるでしょうが、そもそも我々は何のためにそのKPIを測定しているのかというところから考えてみましょう。

 

「営業に報告を依頼するKPI」というのは、本社がブランドプランで提示した施策を

1. 現場がどの程度理解し、

2. それを実行して、

3. 実行したことが効果(成果)につながっているのか

 

を知るための 一連の流れを追いかけるための指標です。

 

つまり本社が、

「この1ヶ月で〇〇をやりきりましょう」とか、

「今回はこういう医師と重点的に〇〇のデータのことを話し込みましょう」とか、

「薬剤投与について、医師には、まずこんな点をヒアリングしてみましょう」

などの基本的な活動を、現場が実際におこなえているかどうかをモニターしたいわけですね。

 

その際に、望ましいのは、全MRが(実際にやれたかどうかという)正しい実態の報告をタイムリーに挙げてきて、その結果に基づいて、本社側の考えたメッセージが本当にうまく伝わっているのか、趣旨まで現場に理解されているのか、そしてそれが(社外向けに)実行に移されているのか、さらには顧客の何らかの変化(認知や行動の変化)につながっているのか、までをKPIで見れることです。

 

しかし残念ながらそういう理想的な姿は 一般的ではありません。

 

原因は多数ありますが、そこの詳細は置いて、私が提案するのは以下のことです。

まず全員、つまり全MRからデータを取ろうという発想を本社は一旦諦めてはどうか、です。ここは全数でなくサンプリング調査をして、その数字から全体を判断することとし、報告は全員でなくても良い というやりかたです。言うまでもなく市場調査のサンプリングの考え方です。

それでは「なぜ、今現在はサンプリングをしないで全員(全MR)から回収するのでしょうか?」

 

どうでしょう、あなたは考えてみたことがありますか?

 

1つの理由は、そこに評価を絡めてしまっている(ことが多い)ためでしょう。

一部の人(MR)しか評価できないのでは困りますよね。

 

しかし、もしKPIとして報告をもらうことの真の目的が、「こちらの言っている事が正しく伝わって実行されているのか を見たい」ということであるならば、 その報告をMRの評価に使わない方がむしろいい、というのは自明のことでしょう。なぜなら、その報告結果それ自体を評価対象にするとなれば、いろいろな思惑が入ってノイズだらけの入力データになってしまいます。

 

人間誰しも、「悪く思われたい」と思う人は少ないので、できるだけ本社が望むような回答数値をそこに入れて返す傾向は否めないでしょう。多くの人がそうやって忖度しつつ、上積みされた数字を入力することが結局は、実態(真実の姿)を分からないものにしているわけです。これは冗談でなく本当に残念なことです。

そういうKPIは「評価」としても機能しないばかりか「モニター」としても 全く意味がないことになります。評価機能を混在させたために、評価もモニターにも使えないGarbageデータになってしまったと言えるでしょう。 

したがって提案としては、まずKPIで評価をするのを止める。

すると全員から取る必要は必ずしもない。

そうするとサンプリングで良い。

サンプル抽出された人は評価されるわけではないし、無理に上積みされた(本社が望むような)数字を入れて報告する必要はない、ということになります。

もちろん、何もしないで簡単にそうはならないでしょうから、ここは 営業マネージャー達としっかり話し込んで、なぜ無作為にランダムサンプリングした人から回収するのか、を理解してもらう必要があります。

 

繰り返しになりますが(お金も手間もかけた)本社のメッセージが現場にちゃんと伝わっているかという分析に役立たないKPIは要らないのだということを、現場のファーストラインマネージャーによくよく理解してもらうことが重要です。

もっとはっきり言えば、嘘を入れるくらいだったら、モニターを辞退して欲しい、と言うことですね。

嘘を入れてもらってデータを濁らせることのないような仕掛け、あるいは嘘を入れることに何のメリットもない、 それどころか嘘を入れると全体に多大な迷惑をかけるのだ、という本質的な理解を本社と営業に持ってもらう。そこからスタートすれば、現状の主観による水増し数字というのはかなり避けられるでしょう。

 

また もし「毎月の報告が大変」という状態があるのでしたら、これもサンプリングによって分散して当たるようにすればある程度解消はできるはずです。

また当然MRが自己申告で入れなくても済むような 何らかの形でログを取って自動的に報告されるような仕組み の導入はさらに進んでいくでしょう。

ただ繰り返しますが大事な事はログさえ取れればいいのではなくて、何のために、こうしたモニターをしているのかということをしっかり理解してもらうことです。そしてそこに本社も本気になることです。

それなしにはKPIというのは、残念ながらお金と手間をかけて壮大なフェイクデータをいじくっているという、見せたくない、見たくない現実になってしまうのではないでしょう

製薬企業は 国民健康保険制度の元に成り立っているビジネスである以上、こういったあまりにも不合理なことを延々と続けていくことに対しては、もっと倫理的なブレーキをかけるべきだろうと思っています。

まずは、自社のKPIの実態を見て、評価がはいっているかどうか?

評価がもし入っているなら、それによりどんな事態がこれまで起きていたのかを振り返るところからスタートしてはどうでしょう。

 

 

代表

尾上昌毅

尾上昌毅 (Masaki Onoue)

新任プロダクトマネージャーの方には医薬マーケティングの始めの一歩を、経験のあるプロダクトマネージャーの方には医薬品ブランドプラン作成の疑問点を集中的に練習するコースをご提供します。

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